DXを進める技術者に必要な4つの力|専門技術だけでは変革が進まないと考える理由

DXやAIの導入というと、新しいシステムやAIツールの選定が中心になりがちです。

しかし、実際に業務を変えるのはシステムだけではありません。

新しい仕組みを理解し、自分たちの仕事にどう使うのかを考え、 周囲と協力しながら改善を続ける人が必要です。

私は現在、ある企業の技術顧問として、 技術部門のDX・AI活用に向けた現状調査と将来像の検討に取り組んでいます。

前回の記事

製造業のDX・AI導入は、いきなりシステムを選ばない|As-Is調査からTo-Be像を描くまでの実践 では、 As-Is調査 → 課題整理 → To-Be像 → 施策検討 という順序で進めていることを書きました。

今回は、その中でも「人材」に焦点を当てます。

なお、ここで書く内容は、 「これが現在の技術者の正解だ」と断定するものではありません。

過去に技術部門の人材育成について考えた経験と、 現在進めているDX・AIの現状調査をもとに、 DXを進めるためには技術者にどのような力が必要なのか、 そして会社として何を確認する必要があるのかを整理したものです。

DX・AI実践シリーズ 第2回

システム選定の前に整理したい3つのこと

このシリーズでは、DX・AIの専門業者へ相談する前に企業側で整理しておきたいことを、 「現状」「人材・組織」「専門業者への依頼」の順に3回でまとめています。

STEP 1 As-Isから始める

システムを選ぶ前に、現在の業務・情報・人材・組織を確認する

STEP 2 人材・組織を考える今回

DXを進める人材像と、仕事の与え方・育成・組織を見る

STEP 3 専門業者への依頼を整理する

外部へ任せることと、企業側で判断することを分ける

DXは、システムを入れただけでは進まない

新しいシステムやAIを導入しても、 「誰が情報を更新するのか」 「誰がAIの回答を確認するのか」 「仕事の進め方をどう変えるのか」 は自動的には決まりません。

技術者に必要な能力を4つの領域で考える

私が過去に整理した考え方では、 技術者に必要な能力を大きく次の4つに分けています。

01

専門技術力

まず基本となるのは、当然ながら専門技術です。 設計、開発、評価、検証など、 自分が担当する分野で必要となる知識や経験です。

ただし、単に知識を持っているだけではなく、

  • 問題を見つける
  • 原因を考える
  • 仮説を立てる
  • 試す
  • 結果を評価する

といった技術者としての問題解決力も含まれます。 DXやAIが進んでも、この力そのものが不要になるわけではないと思います。

02

対人・協働力

次に必要になるのが、人と仕事を進める力です。

  • 自分の考えを説明する
  • 相手の話を聞く
  • 他の担当者と協力する
  • 必要な情報を共有する
  • 自分で考えて行動する
  • 環境の変化に対応する

DXを部門横断で進める場面では、 一人の技術者だけで仕事が完結するとは限りません。

技術部門だけでなく、営業、製造、品質、情報システム、経営、 さらに外部の専門業者など、 異なる立場の人と仕事をする場面が増えます。

そのため、専門技術が高くても、 周囲と情報共有できなければ変革は進みにくくなります。

03

事業化推進力

特にDXや新規事業に関わる技術者には、 専門技術だけでなく、顧客や事業を見る視点も必要になると考えています。

例えば、次のような視点です。

  • 顧客は何を求めているのか
  • その技術によって何が良くなるのか
  • 製品として価値があるのか
  • コストに見合うのか
  • 市場で使われる可能性があるのか

こうした視点も必要になります。

特に新しい技術やAIを導入する場合、 「技術的にできる」ことと、 「会社として導入する価値がある」ことは別です。

技術を事業や顧客価値へつなげる視点も、 DXや新規事業に関わる技術者には重要だと考えています。

04

マネジメント力

すべての技術者が管理職になる必要はありません。

ただし、仕事の規模が大きくなると、

  • 計画を立てる
  • 優先順位を決める
  • 進捗を確認する
  • 関係者を調整する
  • 問題が発生したときに判断する
  • 後輩へ仕事を任せる

といった力が必要になります。

DXを具体的な施策として進める際には、 プロジェクトとして関係者を調整する場面もあります。

したがって、技術そのものとは別に、 物事を前へ進める力を持つ人材が必要になります。

全員がすべての能力を身につける必要はない

ここで注意したいことがあります。

「これからの技術者は、専門技術も、コミュニケーションも、 事業も、マネジメントも、すべてできなければならない」 という意味ではありません。

それでは現実的ではありません。

私はむしろ、会社の中に複数の技術者像があってよいと考えています。

  • 専門性を深く追求する人
    特定技術について、高い専門性を持つ。
  • 複数の技術分野をつなぐ人
    一つの専門だけではなく、複数の領域を理解して問題を整理する。
  • プロジェクトを進める人
    技術者をまとめ、計画・調整・判断を行う。
  • 新しい製品や事業を考える人
    技術と顧客・市場を結び付ける。

このように、人によって伸ばす方向が違ってよいと思います。

重要なのは、会社としてどのような人材が必要なのかを考えたうえで、 現在どのような人材がいるのかを確認することです。

OJTだけでは育成が難しい理由

技術者教育では、OJTは非常に重要です。 実際の仕事から学べることは多くあります。

しかし、OJTだけでは、 本人が現在担当している仕事の範囲に学習が偏る可能性があります。

例えば、同じ種類の設計業務を何年も担当していれば、 その分野では高い専門性を持つようになります。

一方で、

  • 他の製品
  • 他の技術
  • 他の部門
  • 顧客との接点
  • プロジェクト管理

を経験しなければ、それらの能力を身につける機会はありません。

したがって、現在の仕事を続けていれば、 将来会社が必要とする人材が自然に育つとは限りません。

会社側が、

  • どのような経験をさせるのか
  • どのような仕事を任せるのか
  • どのタイミングで役割を広げるのか

を考える必要があります。

「技術者本人」だけでなく「仕事の与え方」も調べる

人材育成の問題が出ると、 「本人に成長意欲がない」という話になりやすいものです。

しかし、本当にそうなのでしょうか。

例えば、

  • 上司が重要な仕事を自分で抱えている
  • 失敗を避けるため若手へ仕事を任せない
  • 仕事の目的を十分に説明していない
  • 忙しくて指導する時間がない
  • 新しい仕事へ挑戦する機会がない

という環境であれば、 本人だけに原因を求めることはできません。

そのため、現在進めている調査でも、 技術者本人の能力だけを見るのではなく、 管理者がどのように仕事を与えているか という点も確認する必要があると考えています。

スキルマップだけでは分からない

現在の人材を把握する方法の一つとして、 スキルマップがあります。

例えば、

  • 共通能力
  • ハードウェア
  • ソフトウェア
  • 機構
  • 製品固有知識

などに分け、 技術者がどの程度の能力を持っているかを整理します。

これは有効な方法ですが、 スキルマップだけですべてが分かるわけではありません。

例えば、技術力が高くても、

  • 他の人へ知識を伝えられない
  • 部門間で情報共有できない
  • 新しい仕事へ挑戦する機会がない

という可能性があります。

そのため、現在の取り組みでは、

  • スキルマップ
  • 管理者へのヒアリング
  • 担当者へのアンケート
  • 組織風土の確認
  • 仕事の与え方
  • 従業員が感じている仕事や成長への認識

など、複数の方法から確認することを検討しています。

重要なのは「仮説を調査で確かめる」こと

私自身にも、過去の経験から、 「この組織にはこのような問題があるのではないか」 という考えはあります。

しかし、それをそのまま現在の会社へ当てはめるべきではありません。

例えば、「若い技術者に主体性がない」ように見えても、 本当の原因は「任される仕事が少ない」ことかもしれません。

あるいは、「新しい技術を勉強していない」ように見えても、 「日常業務が多すぎて時間が取れない」ことが原因かもしれません。

したがって、 最初に仮説を立て、 アンケート、ヒアリング、スキルマップなどによって確認する という順序が重要だと思っています。

これは、DXのAs-Is調査と同じ考え方です。

DXのTo-Be像には「人の姿」も必要

DXのTo-Be像というと、

  • 情報が一元管理されている
  • AIで検索できる
  • 業務が自動化されている

といったシステム側の姿を考えがちです。

しかし、それだけでは不十分だと考えています。

例えば将来、

  • 必要な情報を自分で探せる
  • 過去の技術情報を活用できる
  • 他の担当者と知識を共有できる
  • 問題を見つけて改善提案できる
  • AIを使うべき仕事と使わない仕事を判断できる
  • 必要に応じて外部の専門家と仕事ができる

という技術者が増えていれば、 DXによって整備した仕組みも活用されやすくなります。

To-Be像では、 システムのあるべき姿と、人・組織のあるべき姿の両方を考える必要があります。

AI時代でも、技術者の判断が重要だと考える理由

AIを導入すると、 「技術者の仕事がAIに置き換わるのではないか」 という話も出ます。

しかし現在の取り組みを考える限り、 私は単純にそうは考えていません。

AIが、

  • 過去資料を探す
  • 文書のたたき台を作る
  • 情報を整理する
  • 似た事例を探す

といった作業を支援することは考えられます。

一方で、

  • その情報が正しいか
  • 製品に使ってよいか
  • 安全性に問題はないか
  • 顧客要求を満たすか
  • 最終的にどの案を採用するか

という判断は残ります。

AIによって単純な作業が減れば、 技術者にはむしろ、 考える、判断する、説明する、他者と協力する という仕事の比重が高くなる可能性があります。

現在の会社に必要な技術者像は、これから確認する

ここまで書いた内容は、 私が過去の経験から考えてきた技術者像です。

しかし、現在支援している会社について、 「この技術者像が正しい」と結論づけているわけではありません。

現在はAs-Is調査の段階です。

業務、情報、人材、組織を調べ、

  • 現在どのような人材がいるのか
  • どのような技術が必要なのか
  • 何が不足しているのか
  • 管理者はどのように仕事を与えているのか
  • 技術者本人は将来をどう考えているのか

を確認したうえで、 その会社に合った人材像を考えていく必要があります。

私が重視していること

「理想の技術者像」を先に決めて、 社員へ当てはめることではありません。

過去の経験から仮説を持ちながら、 現在の業務・人材・組織を調査し、 その会社に必要な人材像を確認していくことです。

ここは、DXを進めるうえで大切にしたい点です。

まとめ|DXは「システム・業務・人材・組織」を一緒に考える

DXやAI導入では、 新しいシステムやツールに目が向きやすくなります。

しかし、システムを使って仕事を変えるのは人です。

  • 専門技術だけでDXが進むとは限らない
  • すべての技術者に同じ能力を求める必要はない
  • 本人の能力だけでなく、管理者の仕事の与え方も確認する
  • スキルマップだけでなく、ヒアリングや組織風土など複数の面から調べる
  • 過去の経験をそのまま現在の会社へ当てはめず、仮説を調査で確かめる
  • DXのTo-Be像には、システムだけでなく人材・組織の姿も含める

現在進めているDX・AIの取り組みでも、 こうした人材・組織の観点を含めてAs-Isを確認し、 将来のTo-Be像につなげていく予定です。

まだ途中の取り組みですが、 調査結果からどのような課題が見えてきたのか、 またそれをどのような施策へつなげるのかについても、 守秘義務に配慮しながら今後記録していきたいと考えています。

DX・AI実践シリーズ

第1回|As-Isから始める
製造業のDX・AI導入は、いきなりシステムを選ばない →

第2回|人材・組織を考える (この記事)
DXを進める技術者に必要な4つの力 →

第3回|専門業者への依頼を整理する
DX・AIの専門業者に何を依頼する? →

次に読む|第3回「DX・AIの専門業者に何を依頼する?」 →

DX・AI導入に関する課題整理のご相談

DXやAIを導入する前に、 「現在の業務や人材のどこに課題があるのか」 「何を調べればよいのか」 を整理したい企業・担当者の方からの相談を受け付けています。

システム開発や技術研修を請け負うものではなく、 現在の状況を伺い、 課題、選択肢、次に確認することを整理します。

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